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お盆休みに行きたい場所、第1位!(当社調べ) (4)

 ほぼ入れ替わりに、
「お姉ちゃーん! 」
その場の沈んだ空気を一掃するような明るく元気な調子で言いながら、入口のドアを開け、中学の制服姿の星空が入って来た。
 ドアを開けるために片手を空ける必要があったのだろう、小さな片手で何とか頑張ってソフトクリームを2個持ち、学校の鞄は小脇に抱えている。
 ドアを閉めてから、星空はソフトクリームを1個、空いているほうの手に移し、ちょっとホッとした様子を見せつつ、
「病院の前のたい焼き屋さんがね、今年もソフトクリームを始めたの。お姉ちゃんの好きなイチゴ味と、今年の新商品のみたらし団子味を買って来たんだけど、お姉ちゃん、どっちがいいー? 」
(へえ、みたらし団子味っ? おもしろーい! )
 小陽は、ごく普通に星空に歩み寄り、
「じゃあ、わたしは」
選ぼうとしたが、目の前で、ソフトクリームは2つとも星空の手を離れて落下。
(あっ! )
 小陽は咄嗟に手を伸ばして受け止めようとしたが間に合わず、ソフトクリームは床に落ちてグシャッとなった。
(あーあ、もったいない……)
 それほど多くないはずのお小遣いをはたいて買って来てくれた星空は、もっとガッカリしてるだろう、もしかしたら泣くんじゃないかと思い、小陽は、恐る恐る星空を窺った。
 すると星空は、ベッドのほうを見て固まっていた。
 星空の視線の先にあるのは、横たわっているほうの小陽と、その傍らで泣く母。
「…お…姉、ちゃん……? 」
 星空は足を引きずるようにして、ゆっくりとベッドへ歩いていく。
 ベッド脇、母の隣まで辿り着き、呆然と立ち尽くして、横たわっている小陽を見下ろす星空。
 30分ほどが経ち、病院の人が連絡してくれたのか、父がやって来た。
 母は相変わらず、横たわっている小陽の上に顔を伏せて肩を震わせ、星空は放心状態。
 父は無言で背後から母の肩を抱いた。
 暗く重たい沈黙が、室内を押し包んでいる。
「…お母さん、星空、お父さん……」
 小陽は悲しくなってきた。父が、母が、星空が、悲しんでいるのを見ていたら、何だか、とても悲しくなってきた。
 先程も、一度は、母の泣いているのにつられて泣きそうになったが、星空の明るさに紛らわされていた。
(皆、わたしが死んで悲しんでる……。わたしが、悲しませちゃってる……)
 小陽は、おそらく1時間半から2時間くらい前、自分が死んだのだと気づいた瞬間のことを思い起こす。
(……わたしは、自分が死んだことを、特に何とも思わなかった。多分、自分がいつ死んでもおかしくないって、いつも思ってたからだよね?
 皆は違うのかな? 皆は、わたしと過ごせる時がいつ終わるか知れないから、きっと長くないってことも分かってたから、わたしと過ごす時間を大切に、わたしに優しくしてくれてたんじゃないの? …悔いの残らないように、悲しまなくていいように……。
 足りなかった? タイミングが悪かった? あるよね、そういう時。わたしも正直、星空がせっかく買って来てくれたソフトクリームを、星空と一緒に美味しく楽しく食べてからがよかった、とか、ちょっと思ってる。
 …何か、悲しいよ……。自分が死んだこと自体は何とも思わなくても、そのせいで皆が悲しんでると思うと、これまで、いつもわたしに優しくしてくれた大好きな皆を、わたしが悲しませちゃってると思うと、悲しくなっちゃう……)
 横たわっているほうの小陽の傍で悲しむ3人を、小陽は、胸を締めつけられるような気持ちで、
(…そんなに泣かないでよ……。分かってたことでしょ? わたし、頑張ったよ? 初めにお医者様から言われてたより、ずっと長く生きたよ? 
 星空みたいに勉強やスポーツで頑張って何かしらの結果を出すようなことは無かったけど、頑張ったんだから、そんなに泣いて責めないでよ……)
ほんの少しの腹立たしさを持って見つめた。
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獅兜舞桂

Author:獅兜舞桂
獅兜座(しっとざ と読みます)座長・獅兜舞桂(しっとまいけー)です。
よろしくお願いします。
以前は恵子ミユキの名で活動しておりました。

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