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お盆休みに行きたい場所、第1位!(当社調べ) (3)

 壁にぶつかったのと変わらない状態なのに跳ね返ることを許されなかった分の衝撃があった。
 小陽を受け止めた人物は、大きく息を吐きながら、小陽の背に回していた手を緩め、体を放す。
 その人物は、眼鏡をかけ白いワイシャツにカチッとしたグレーのズボンを合わせた服装をした、やや小柄な20代前半くらいの真面目そうな青年。
 青年は営業スマイルを浮かべ、
「失礼。何度も声を掛けたのですが、聞こえていないようでしたので、強引に止めさせていただきました」
「あ、はあ……? 」
 小陽は頭の中が「?」だらけで、中途半端な返事になってしまった。
 青年は構わず続ける。
「僕は心界役場住民課案内員で日向三郎(ひなたさぶろう)と言います。…えーっと……」
言葉を完全には途切れないようにしつつ、肩から斜めにかけていた肩掛けとしては大きめの鞄の中をガサゴソ。ややしてA4サイズの紙を取り出し、それに視線を落として、
「野原小陽さん、16歳。現住所、西塔市立病院A病棟803号室。転入事由、心不全」
読み上げてから視線を小陽に戻し、手元の紙の向きを変え、シャツの胸ポケットから出したボールペンと共に差し出し、
「間違いが無ければ、ここにサインをお願いします」
サイン欄を指さす。
 小陽は途惑った。間違いが無ければ、と言われても、と。
(…確かに、わたしは、野原小陽って名前で16歳。この病院の名前は西塔市立病院で、この病室の部屋番号はA病棟803号室だけど……。『てんにゅうじゆう』って……? )
 サインをするしない以前に、とりあえず、てんにゅうじゆう、という言葉の意味自体が分からないため、聞いてみようと、
「あの……」
 小陽が口を開いた、その時、入口のドアがコンコン。ノックされてから開き、
「小陽ー」
大きめの紙袋を手にした母が入って来て、ベッドに目をやると急に小声になり、
「あ、お昼寝? そっか、今日は朝から検査があったんだっけ? 疲れちゃったんだね」
 母は音をたてないよう気を遣っている様子で、手にしていた紙袋の中から洗濯済みのタオル類と下着とパジャマを順番に片手で持てる分だけ出しては、所定の位置に仕舞っていく。
 仕舞い終え、部屋の隅から折り畳み椅子を引っ張って来、ベッドの枕側に置いて、フウッと息を吐きつつ腰掛ける母。空になった紙袋を畳んでサイドボードの上に置いてから、ベッドに横たわっているほうの小陽の顔を間近から覗いた。
 直後、
「…小…陽……? 」
表情を曇らせてガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、
「小陽! 小陽っ! 」
横たわる小陽に覆い被さるようにして肩を掴み、揺さぶった。
 母は、今にも泣き出しそうな表情で、枕元のナースコールのボタンに縋るように手を伸ばし、押す。
 すぐさま主治医と看護師2名が駆けつけた。
 駆けつけざまベッド脇から小陽を一瞬だけ見下ろし、看護師2名を振り返って、何やら指示を出す主治医。
 それを受け病室を飛び出して行った2名の看護師は、ちょっともしないうちに大掛かりな感じの機械を2人がかりで押して戻って来た。
 そこからは、泣き顔の母が隅で見守る中、主治医と看護師があれやこれやと動き回り、室内はにわかに騒がしく。
 ややして、大きな動きをしなくなった主治医。
 看護師2名は機械を片付け運び出す。
 静けさ取り戻した室内で、主治医、胸ポケットからペンライトを取り出し、小陽の左右の瞼を押し開いて光を当てた。
 それから、腕時計を確認。
「17時27分。ご臨終です」
「……っ! 」
母が、声になりきらない声で何かを叫び、横たわっているほうの小陽に駆け寄って、その胸の上あたりに抱きつくように覆い被さって顔を伏せ、肩を打ち震わせる。
「…お母さん……」
泣いている母につられて、小陽も泣きそうになった。
 一礼して退室する主治医。
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獅兜舞桂

Author:獅兜舞桂
獅兜座(しっとざ と読みます)座長・獅兜舞桂(しっとまいけー)です。
よろしくお願いします。
以前は恵子ミユキの名で活動しておりました。

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