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SHINOBI~キリ・セキュリティ株式会社身辺警備部隠密警護班~ (2)




 背中と膝の裏に、太めの棒状のものと思われる何かが めり込み、同時に、トランポリンの上で跳ねた時のように、一旦沈み すぐに押し戻されて体が宙に浮いた感覚があった。周囲の空気が止まっている。と、いうことは、もう落ちていない。背中と膝の裏が少しだけ痛い。何となく思い描いていた おしまいの時との あまりの違いを、
(? )
ハナは不思議に思って目を開けた。
 すぐ目の前に、黒いニット帽の下から僅かに明るい色の髪の先が覗く 黒のネックウォーマーで下唇まで隠した 20代後半くらいの男性の顔。ハナは、その男性の腕に 背中と膝の裏を支えられていた。どうやら、落ちてきたのを受け止められたらしい。
 男性は、溜息を吐きつつ、ハナが自力で立てることを確かめるようにしながら、静かに静かに、ハナを地面に下ろした。
 ハナ、呆然としてしまう。
(…死ねな、かった……)
目の前で男性が しきりに何か喋っている様子なのを、フィルター越しな感じで見、その声を遠くに聞く。 
「おい、聞いてんのっ? 」
大きな鋭い声。
 ハナ、ハッとする。
 男性は片手で自分の額を押さえ、大きな大きな溜息。
「いいか? もう1回だけ言うぜ? あんな高い所から落ちてこられて、もし、まともに ぶつかったりしたら、こっちまで死んじまったりするんだよ。 次からは、必ず下を見て、上を見て、右を見て、左を見て、もう一度下を見て、人がいないのを確認してから落ちてくれ」
冷静な口調で一方的に喋り、最後にビシッとハナを指さして、
「分かったかっ? 」
 ハナ、反射的に、
「は、はいっ! 」
 男性は、よし、と頷き、クルッと背を向けて、
「んじゃな」
後ろ姿で手を振りながら去って行った。
 その後ろ姿を見送りながら、ハナの心には悔しさが こみあげてきていた。
(何で、私が こんな一方的に言われなきゃいけないの……? )
面倒くさいと、一旦は ほぼ停止状態にあった思考回路が、どこかに何かキッカケでもあったのか、いつの間にか復活していた。
(どうして、私が こんな目に遭わなきゃいけないの? 理不尽だよね。私、何も悪いことしてないのに……。そう、私は何も悪くない。 じゃあ、悪いのは誰? 誰のせいで、私は こんな思いをしてるの? お父さん? お父さんが独り言を言うから、頭がおかしくなりそうだから? 家を出ることになった直接の原因は それだし、今のお父さんは本当に嫌だけど、何か違う。 お母さん? お母さんが出て行ったから? お母さんが家にいたら、私は家を出て来なかったのかな? 違うよね。だって私、家を出るより先に、お母さんの誘いを断ってる。大体、お母さんが出て行ったのだって、お父さんが あんなじゃ、無理もないし……。 そもそもは、お父さんが会社を辞めさせられたから……)
そこまで考えが及んだところで、ハナはハッとする。
(そうだ! お父さんは『辞めた』んじゃない、『辞めさせられた』んだっ! 誰に? おじさま……藤堂の、おじさまに……! )
藤堂の笑顔が ハナの脳裏を過ぎる。
(あんな顔して、私に こんな思いをさせて! お父さんを あんなふうにして! 許せない! )
藤堂の顔は、笑顔しか思い浮かばない。消しても消しても、藤堂の笑顔が目の前をチラつく。気持ち悪い……。吐き気がする……。
(死ねなくて、良かった……。何も悪いコトをしてない私が死ななきゃいけないなんて、バカらしい。生きてたって、これから どうしていいか分かんないけど、帰るトコも無いけど、私が こんなに苦しんでるのに、おじさ……ううん、藤堂が、のうのうと生きてるなんて、我慢出来ない。死ぬなら、あの男、藤堂。藤堂が死ねばいい。私は とりあえずまだ生きて、藤堂を殺して、死ぬのは、それからでもいいかも知れない。っていうか、藤堂が生きてたら、私、死ぬに死ねない。死ねる気が全然しない。……面倒くさく感じてたけど、何か、いつの間にか、ビルから下りれてるし……)
 ハナは、足下のアスファルトをグッと踏みしめ、
(行こう……! )
歩き出す。

 不思議と、夜道は全く怖くない。寒さも感じない。空腹も気にならない。喉から みぞおち辺りにかけてが熱い。
 藤堂宅へ向かってズンズン歩くハナ。途中で、乗ってけとばかりに放置自転車。持ってけとばかり、ゴミ捨て場に 先端がグラつき柄の錆びたゴルフクラブ。
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獅兜舞桂

Author:獅兜舞桂
獅兜座(しっとざ と読みます)座長・獅兜舞桂(しっとまいけー)です。
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以前は恵子ミユキの名で活動しておりました。

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