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この腕表紙(タイトルあり)
画像素材として、
キャラクターをキャラクターなんとか機様にて作成させていただきました。
ニコニ・コモンズ様より、
おぴっつ様 GANGERIO_mk様 漫博堂様 つのがわ様 (順不同)
の作品をお借り致しました。
ありがとうございます。

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四界戦記 月空界・地表界編外伝~ずっと、この腕のなかに・・・~ (1)


少年らしく逞しささえ感じられるようになった貫太の背中が、まだ熱を持たない早朝の眩しすぎる光の中、自宅に面した細い坂道を下り、次第に遠く、小さくなっていく。
 門の前で見送るショーコの胸は、キュウッと締めつけられていた。鼻の奥と言おうか、目と目の間の骨と言おうか、とにかく、その辺りに違和感。軽く息も詰まる。貫太を初めて幼稚園に送り出した時の気持ちに似ている。
「お母さん、僕、戦うよ」
貫太が突然、そう切り出したのは、昨日の晩のことだった。そして、急な旅立ち。
 やがて、坂道を下った突き当たり、中村家の前の道を左に曲がり、貫太の姿は完全に見えなくなった。
 それでもなお、立ち尽くすショーコ。
 清次が門の内側方向へ体の向きを変えつつ、不器用に、そっとショーコの肩に手を置き、気遣わしげに口を開く。
「お母さん、もう入ろう。あんまり外にいると、体に良くねえよ」

 
 先に立って歩き出す清次のすぐ後に続き、ショーコは、家のほうへ1歩踏み出してから、もう一度、貫太が行った坂道を振り返った。
(戻れたらいいのに……)
貫太がまだ幼かった頃に戻れたら、そして、そのまま時が止まってくれたら……。


四界戦記 月空界・地表界編外伝~ずっと、この腕のなかに・・・~ (2)

* 第1部




            * 1 *


 県営団地の4階の一室、ベランダ側南向きの4畳半に、春の優しい陽が射し込む。穏やかな昼下がり。ショーコは、窓際の壁に寄り掛かって座り、窓とベランダの手摺の向こうに見える空を眺め、眠気と戦いつつ、生後2ヵ月の次男・清次に、母乳を飲ませていた。飲み終われば清次は眠るはず、そうしたら少し横になろう、それまでの辛抱だ、などと思いながら……。
 と、そこへ、トイレから戻ってきた5歳の長男・貫太、
「きーちゃんっ 」
清次に覆い被さるように、至近距離から、その顔を覗き込む。
 それまで口だけはジュッジュッと音をたてて忙しく動かしながらも、目はウットリと半分近く閉じ、今にも眠りそうだった清次は、パッチリと目を開けた。
 貫太は一度身を起こして清次と距離をとり、また、
「きーちゃんっ 」
と覗き込む。
 そしてまた距離をとり、三たび、
「きーちゃんっ 」
と、繰り返した。
 清次は乳首から口を放し、貫太が覗き込む度、歯の無い顔でニチャッと笑い、距離をとる度、貫太の姿を追って体を反らせ、飲むことに集中しない。
 ショーコは眠気のせいもあり、イライラ。それでも、貫太は清次のことが可愛くてたまらないから、こんなふうに構うのだと分かっていることと、清次も喜んでいることから、暫くは我慢していた。
 しかし、あまりにしつこく清次を構い続ける貫太に、ついに、
「もう! いい加減にしてよっ! キーちゃんが全然飲まないじゃん! イライラさせないでっ! 」
 貫太はピタッと動作を止め、気持ちを探るように、ジーッと ショーコの目の奥を見つめる。
 清次は大声に驚いたのか、
「ふえええぇ……! 」
泣き出した。
 ショーコは時々、自分を可哀想に思ってしまう。声に出して怒ったことで、余計に、怒る気分も盛り上がってしまい、きっと貫太は傷つくだろうと分かっていながら、怒りにまかせてフイッと貫太から視線を逸らした。
 貫太がショーコを見つめ続けているのを、ショーコは気配で感じる。
 部屋の中に、清次の泣き声だけが響く。
 ショーコは早くも、少し、自分の行動を後悔していた。目は背けたまま、気配で貫太の気持ちを探ろうとする。
 ややして、貫太が口を開いた。
「まま、いらいら しちゃって、かわいそう」
 それはまるで知らない国の言葉のようで、ショーコは、一瞬、意味を理解出来なかった。理解して驚き、貫太を見る。
(イライラしちゃって、可哀想っ? )
そんな言葉が返ってくるなど、思いもしなかった。もしショーコが貫太の立場で、何か言葉を返すとしたら、
「そんなふうにイライラされたら、こっちまでイライラしてくる! 」
と、返しただろう。
 貫太は心配げにショーコを見つめている。
 貫太の言葉は、ゆっくりとショーコの胸に染み込み、フワッと広がった。
 (どうして、こんなに優しいの……)
ショーコは、涙が出そうになった。急に貫太を抱きしめたくなり、
「カンちゃん……」
片方の腕を伸ばして抱き寄せる。……温かい。
「まま、いらいら なおった? 」
貫太の問いに、
「うん。…ゴメンね……」
ショーコが一生懸命、目を優しくし、口元に笑みを作って見せると、貫太は、ニコッと明るく笑ってショーコから離れ、ちゃぶ台の前に座った。そして、お絵かき帳に向かい、舌を上唇と下唇の隙間にチョロッと出して集中した様子でクレヨンを動かし、トイレに行く前に描きかけていた絵の続きを描き始める。
 その横顔を見つめ、ショーコ、
(ゴメンね……)
もう一度、心の中で呟いた。広い心で貫太や清次を包み込んで甘えさせてあげられるような、信頼される母親になりたいのに、実際には、優しい貫太に甘えてしまっている。いつもいつも、ほんの少し、何かに気持ちを追い詰められては、自分が可哀想になり、貫太に甘えてイライラをぶつけてしまう。後悔も反省もしているのに、繰り返してしまう。
 情けない自分に溜息を吐きつつ、ショーコがふと清次に目をやると、清次は再び目を半開き状態、口だけは、やはりジュッジュッと音をたてながら忙しく動かしていた。
 清次は一瞬、乳首を吸う口を休め、半分寝ている状態の中で何か面白い夢でもみたのか、ニカッと笑う。
 つられてショーコも、自然と笑みがこぼれた。
(…あったかい……)
ショーコは、今、自分の周りに存在する全てを、温かく感じていた。


四界戦記 月空界・地表界編外伝~ずっと、この腕のなかに・・・~(3)

             *  *  *



 ショーコの目の前に、果てしなく開けた、風景……と言っていいものかどうか、髪が洗われる程度の心地よい風が吹いている以外には何も無い空間。頭上には、輪郭のボヤけた、クリーム色の太陽。眼下の白い雲の隙間には、太陽の光を受けてきらめく、青く大きな宝石の一部のような、優しい丸みを帯びた海面が見えた。ショーコの故郷・青の国の、風の縁からの景色に似ている。
 青の国は、月空界という、ショーコが現在暮らしている地表界とは次元を異にする空に浮かぶ4つの国々から成る世界の中で、最も国土面積が小さく人口も少ない小国であり、月空界と地表界、それぞれの次元同士を重ねて考えるとすれば、丁度、ショーコの現在の自宅のある日本の上空に位置する。
 ショーコは、月空界、特に青の国と、地表界の国々のうち日本との間に、何となく縁を感じていた。違う次元に在りながら、驚いたことに、月空界に住む人々・月空人と日本に住む人々は、ほぼ共通の言語を用い、外見の特徴もよく似ている。しかも、青の国などは、次元同士を重ねて考えた時に、日本の真上に在る。
 ショーコだけではない。言語や容姿、それぞれの国の存在する場所から、青の国民と日本人は祖先が同じとの説を唱える学者もおり、また、それを信じる青の国民も多い。


「ショーコ様ー! 」
遥か後方からの呼び声に、ショーコは振り返った。背後は見覚えのある深い森だった。今、ショーコがいる、ここは、風の縁としか思えない。
(どうして……? )
ショーコは辺りを見回した。深い森を正面にした時の左手側には、小さな古い教会。その手前に木製の壊れかけたブランコ。右手側には、大きな岩山にポッカリと開いた、「立入禁止」の立札が立てられた洞穴。足下には、桃色、水色、黄色の、小さな小さな野の花々。どこをどう見ても、やはり、風の縁だ。
「ショーコ様ーっ! 」
呼び声の主は、月空人の 一番の特徴である背中に生えた黒い翼で、森の上をショーコの前まで飛んで来、舞い降りた。
「ショーコ姫様! 」
その人物は、紺色のロング丈のワンピースの上に清潔感のある白いエプロンを身につけた、優しげな細い目をしたふくよかな初老の女性。
(うそ……)
ショーコは目を疑う。 
 女性は、もともと細い目を更に細くして微笑み、
「ショーコ様。王様が、お呼びでございますよ」  
(……ホントに)
「バアヤッ! 」
ショーコは、懐かしさのあまりバアヤに抱きついた。バアヤは、ショーコが貫太を出産する際に、地表界まで手伝いに来てくれた。その時には特に変わった様子も無く元気だったのだが、青の国に帰って間も無く病気のため亡くなったと、親友から聞かされていた。
 ショーコの涙が、バアヤの服を濡らす。
「…会いた、かった……! 」
 バアヤは、ショーコの背をトントン、と、宥めるように叩いてから、そっとショーコの両肩に手を添えて体を離し、自分のエプロンの裾でショーコの涙を拭った。
「あれあれ、いかがなされたのでございましょうね、この姫様は。会いたかった、などと。バアヤは小1時間前に、姫様のお召し替えをお手伝いしたばかりでございますよ」
(……え……? )
キョトンとするショーコを、バアヤは、
「さあさ、王様がお待ちです。参りましょう」
促す。
 ショーコは全く状況が掴めないまま促されるまま、森の上を移動するため、地表界での生活には支障を来すという理由から普段は仕舞ってある翼を出そうとして、
(? )
既に出ていることに気づいた。同時、自分の身に着けている服の肩の部分の若草色の生地が視界に入る。
(? ? ? )
この色の服は、持っていない。ショーコは、自分の着ている服を確認すべく、まず、腕を視界まで持ってきた。肩の部分と同じ若草色の長袖、袖口に同色のフリル。次に、首を曲がる限り下に向かって曲げた。全体が肩の部分や袖と同じく若草色の、地面につきそうなほど長い丈のワンピース。少し高めの位置にウエストが作られ、裾と胸元にも袖口と同じフリルがついている。
(……この服! )
それは、ショーコがまだ青の国で暮らしていた頃の、お気に入り。一番よく着ていた服だった。
(…どうして……? ) 
「さ、参りましょう」
バアヤが繰り返し促す。
 ショーコは、いくつもの疑問を抱えながら、バアヤの斜め前を、実家である青の城へ。


 青い屋根に白い壁の青の城は、ショーコの身長の倍ほどの高さの高い塀に囲まれ、国土のほぼ中央にドッシリと構えている。
 青の城の、開け放たれた大きな正門を、一般開放された庭で食事をとるつもりらしい、弁当と思しき荷物とゴザを手にした何組かの一般の国民の家族連れ。青の城正門前に到着したショーコは、その中にまじり、バアヤと連れ立って通り抜けた。
 何だか、懐かしい。今のところ目にした限り、ショーコが暮らしていた頃と何ひとつ変わらない青の国。一緒に正門を通った家族連れや、正門前を行き交っていた人々の、本当に久し振りに見た、色もデザインも控えめな、実に青の国民らしい服装も……。

 父王の私室へ向かうべく、ショーコは斜め後ろにバアヤを従えて、車が通れそうなくらい広い廊下の、赤い絨毯の上を歩く。
 壁に掛けられた、くどいくらいの装飾が施された鏡を、その前を通り過ぎざま何の気なく見、ショーコは、あっ、と声を上げ、立ち止まった。
「いかがなされました? 」
バアヤの問いに、
「何でもない」
ショーコは短く答え、歩き出す。
(そういうことだったんだ……)
鏡に映ったショーコは、若かった。今も、一般的には、若者、と呼ばれるような年齢だが、鏡の中のショーコには、現在のショーコには、もう無い、はちきれんばかりの若さがある。疑問は、全てキレイに解決した。……これは、夢だ。「ショーコが暮らしていた頃と変わらない」、も何も、今、ショーコは、ショーコが暮らしていた頃の青の国が舞台の夢をみているのだ。
 と、その時、鏡が掛けられた壁とは反対側、窓の外から、小さな子供の泣き声が聞こえ、ショーコは再び立ち止まって、外を覗く。
 そこは、色とりどりの花々が咲き乱れる中庭。1つ年下の弟・ユウゾと、その幼い頃からの友人2人、それから、近所に住む小さな子供たち数人がいた。
(ん、やっぱ 夢だ)
ユウゾも、その友人たちも、ショーコと同じく若かった。もう長いこと会っていないが、夢でないなら、ユウゾも友人たちも、今、ショーコの目の前にある、この姿よりは、少しくらい大人っぽくなっているはずなのだ。
 若いユウゾの前で、1人の女の子が、丁度その子の手のひらくらいの大きさの赤い花・ルンルン草の花を手に、泣いている。
「ごめんなさい おうじさま……」
しゃくり上げながら女の子は、花があまりに綺麗だったため触ったら、折れてしまったのだと、説明した。
 ユウゾは優しく笑み、
「大丈夫だから、泣かないで」
地面に膝をついて女の子と目の高さを合わせ、彼女から、折れたルンルン草を受け取ると、
「このお花さんはね、きっと、君の髪飾りになりたかったんだよ」
言って、彼女の髪に、それを飾った。
 女の子は涙を拭い、笑顔になる。
 ショーコは、胸がホッと温かくなるのを感じながら、視線を廊下の前方に戻し、歩を進めた。
 

四界戦記 月空界・地表界編外伝~ずっと、この腕のなかに・・・~ (4)

父王の私室前で足を止め、ショーコは、一度大きく息を吸って吐いた。父王とは6年前、現在の夫・慎吾との結婚のことで気まずくなったまま城を出て以来、会っていない。夢だと分かっていても緊張する。
 木製の大きく重厚な観音開きのドアをノックし、
「ショーコです」
「入れ」
ドア越しの父王の声を待ってからドアを開ける。
 父王は、部屋の中央に置かれた、すっかり地表界での生活に慣れたショーコの感覚からすれば1人で寝るにはもったいないような、大きなベッドに横たわっていた。
 起き上がろうとする父王にバアヤは駆け寄り、手を貸し、その肩にガウンを掛けてから、父王が寄り掛かれるよう、その背の後ろ、ベッドのヘッドボード部分に枕を立て掛ける。?
 ベッドの上に上半身起き上がった父王は、バアヤに外してくれるよう言い、ショーコに自分の傍まで来るように言った。
 言われるまま、ショーコは父王のベッド脇へ。
 バアヤが会釈をして部屋から出て行くのを待ち、父王は、立て掛けられた枕に凭れ、腹の上で10本の指を組み合わせて一度大きく息を吐いてから、真剣な眼差しをショーコに向け、口を開く。
「ショーコ、お前は次期王位について、どう考える? 」
(あの時? )
ショーコは、この場面に憶えがあった。
 父王が続ける。
「私は、お前に継いでもらいたいと考えている」
(やっぱり、あの時のことを夢にみてるんだ)
この場面は昔、現実にあった場面。健康に自信があり大きな病気の経験が無かった父王が、生まれて初めて寝込むほどの病に罹ったため弱気になり、自分亡き後の青の国について、真剣に頭を悩ませていた時だ。
 青の国の王位は代々、男子が継いできた。そのような決まりは無いが、慣習として、そうだった。慣習からすれば、次期王はユウゾだ。……ショーコは何の疑いも無く、そう思い込んでいた。おそらく、城の召使たちや国民たちも。 
 父王の言葉に、この、今、夢にみている場面が現実だったあの時、ショーコは驚いた。
 父王はショーコを王にと考えた理由を2つ挙げる。 
 1つは性格。
 この場面より少し前、ショーコとユウゾが共に受けた王位継承者候補としての学習の中で、他国の紛争で犠牲になった乳飲み子の実話を取り上げた。その際、心優しいユウゾは涙し、悲しみに暮れ、平和を祈った。対してショーコの反応は、悲しみより、むしろ怒り。如何にすれば幼い命が犠牲にならずに済むのか考えた。そのショーコの反応は、出来ることがあるならば実行するということを意味すると、その時の学習内容の報告を後から担当の家庭教師より受けた父王は、受け取ったらしい。 父王は、君主の務めを、国民を幸せにすることであると考えている。そのためには平和な暮らしが第一、と。それ故、父王はユウゾの反応についても否定はしない。平和を祈る気持ちが無ければ、世の中は平和になどならない。この世に生きる全てのものが優しい気持ちで他者と接し、心から平和を望んだとき、初めて、本当の平和が訪れる。平和への祈りも優しい心も、とても大切であるためだ。とは言え、優しいだけでは何も守れず祈るだけでは何も変わっていかないのが現実。父王は、ショーコの前向きで行動的な性格を買ったのだ。
 もう1つは、能力の種類による向き不向き。
 月空人は皆、月空力と呼ばれる能力を持っている。特に、王家の者の月空力は強い。月空力はバリエーションに富んでおり、それぞれ違うため、同じ王家の姉弟の能力を力の強さという観点で比べることは不可能だが、父王は、単純に、能力の派手さから、ショーコのほうが王に向いていると判断したらしい。時々は派手な能力で力を顕示する。王にはカリスマ性も必要と、父王は言う。父王自身の月空力のタイプがショーコと同じく派手なタイプであるため、余計にそう考えるのだろう。
 ショーコは父王の挙げた理由に首を傾げた。
 性格については、本当にショーコが父王の考えているとおりの性格だとしたら頷けもするのだが、父王は、完全に勘違いをしている。ショーコは、前向きでも行動的でもない。先の学習の際の怒り、如何にすれば幼い命が犠牲にならずに済むかとの考えは、その場だけのものだった。と、言うより、その怒り自体が、学習の時間を遣り過ごすためポーズ……? のような……。子を持つ母となった現在のショーコであれば、もう少し違ったであろうが、当時のショーコは、気の毒な話だ、くらいに思った程度。正直、顔や態度に出るほどの強い感情は湧かなかった。ただ、何かしらの反応を見せなければならないような気がして……。
 一方、ユウゾは、おそらくポーズなどではなかった。学習の時間だけでなく、学習の時間が終わった後も、悲しみに暮れながらも1歩踏み出し、ショーコがポーズで口にしただけの、「如何にすれば幼い命が犠牲にならずに済むか」をテーマに、真剣に考え続けていた。父王の望む、前向き、という性格に近いのは、ユウゾのほうではないのか。……もっとも、ショーコは、父王から、この、次期王位についての話をされるまで、自分はユウゾの学習に付き合わされているだけであると思っていた。自分もきちんとした王位継承者候補であると知っていれば、もっと真面目に取り組んでいたかもしれないが……。
 前向き・行動的という性格を抜きに考えたとしても、ユウゾが子供からお年寄りまで多くの国民から慕われている事実は無視できない。
 能力の面でも、ショーコは、自分の派手な能力より、地味だがユウゾの能力こそ王に相応しい能力でははいかと思う。ショーコの能力は、物に直接手を触れずに動かすタイプの能力。目にはっきり見えるため派手だが、便利なだけの能力だ。無ければ無いで自分の体を動かし、場合によっては道具を使い、同じことを行えばよいだけのこと。当然ショーコのものよりは弱いが、似たようなタイプの能力を持つ人は大勢いる。だが、ユウゾのようなタイプの能力は、非常に珍しい。と、言うより、おそらく他にいない。ユウゾの月空力は、人の心を癒す。ユウゾにそっと手を握られるだけで、怒りや悲しみはどこかへ行ってしまう。ユウゾの微笑みひとつで、満ち足りた幸せな気分になる。比較的分かりやすい能力としては、一瞬で他人を眠らせたり、他人の記憶を操作したり……考えようによっては恐ろしい能力だ。だからこそ、優しく穏やかな性格のユウゾが持って生まれてきたのではないかと思う。能力を正しく使い、未来の青の国を幸せに導くため王家に生まれた、生まれながらの王者なのではとさえ思える。 
 自分よりユウゾのほうが王に向いている。ショーコは、所詮は夢の中だが、現実のあの時と同じく、父王の顔色を窺いつつ、しかし、キッパリと、
「父上。私は自分よりも、ユウゾのほうが王に相応しいと考えます。国民も、女である私を王とは認めないでしょう」
 青の国民は、伝統を重んじる向きがある。
 父王は、ウム、と低い声で頷き、
「国民の反応については、私も考えた」
それから一呼吸置いて、
「そこでだ。お前に、地表界に行ってもらいたい」
唐突な言葉が続く。
 現実のあの時には驚いたショーコだが、今回はもう2度目のため驚かない。無論、地表界に行く理由も知っている。
 父王は、もともと地表界びいきであった上に、数年前、忍んで地表界へ1人旅をした際、地表界に住む人……地表人から多大なる恩を受けたという。
 この夢の当時、地表界の、父王が恩を受けたという人が暮らす、丁度、風の縁の真下に位置する地域一帯は、日空界にっくうかいによる侵略の危機に瀕しており、父王は、何とかしたいと考えていた。しかし、自分は病床にある。そのため、ショーコに地表界へ行き、日空界から送り込まれた軍隊を退却させるよう命じたのだ。それだけのことが出来れば、国民もショーコを認めるであろう、と。
 王位の件はさて置き、ショーコは、病床の父王を気遣って地表界侵略の阻止を引き受け、この後、地表界に向かうことになる。


 日空界とは、月空界とも地表界とも次元を異にする世界。存在する正確な位置は分かっていないが、そこの住人である日空人を、侵略の危機以前から、頻繁に、地表界上空で見かけることがあったらしい。
 月空人が黒い翼を持ち、黒髪、こげ茶色の目、黄色がかった肌色をし、口から音声として言葉を発して会話するのに対し、日空人は白い翼に金髪、青色の目、白い肌、と、全体的に色素の薄い外見で、白い一枚布を全身に巻きつけただけのような変わった服装をし、特定の言語を持たず、頭の中に直接語りかけてくる。
 ショーコは、あまり日空人が好きではない。この夢の当時の時点では、そのように考えてはいなかったが、この後、地表界へ行き、日空人と会話を交わし、その気質故、そう思うようになった。勘違い気質とでも言おうか、自分たち日空人が、異なる次元も含めた全ての世界のリーダーであるとでも思っているようだ。
 地表界侵略に関しても、そう。日空界には大地が無く、人々は特殊な方法で固めた雲の上で生活していると聞く。大地が無いのだから、日空界の農作物は、全て水耕栽培であると思われる。大地で育まれたほうが美味しい種類の作物は多いだろう。地表界へ出掛けた青の国民が地表界上空で見かけた日空人のほぼ100%が地表界産の農作物を手にしていた点からの憶測に過ぎないが、日空人は大地で育まれた作物を好み、大地を欲している。日空界が地表界を狙う理由をそう考えたため、ショーコたち王家の者も含め、青の国民は、日空界による地表界への一方的な攻撃を侵略と呼んでいた。……そのほうが、まだまともに思える。この後、ショーコが地表界で出会う日空界の軍人たちは、自分たちが地表界に攻め込んだ理由として、
「地表界ハ環境・治安トモニ悪化ノ一途ヲ辿ッテオリ、ソノ影響ハ他ノ次元ニモ及ビカネナイ。全テノ世界ヲ守ルタメ、人格的ニモ技術的ニモ先進シテイル我々ガ指導スベキ」
との大義名分を掲げ、本気でそう考えているようだった。ただ、更に後になって、地表界における日空界の軍隊の責任者と話す機会があり、大義名分は間違いなく国としての方針だが、地表界の大地を手に入れることについて、全ての世界を守るために戦ったことに対する当然の報酬と位置づけ、当初から大地を手に入れることが念頭にあったと知ることになった。結局は侵略だった。しかし、侵略と知れば異を唱える者が現れるためだろうか、一般の軍人には伝えていなかったのだ。だが、話してみて、やはり、その勘違い気質が、どうしても本物であるとも知った。

 悪いことに日空人は、地表人の思い描く神の御使いたる天使に、姿が似ている。そのため、日空界の地表界侵攻はスムーズに進んでいた。
 事態は急を要する。
 ショーコは、バアヤの手を借りて大急ぎで、携帯できる簡単な食糧と飲料水・父王が地表界を旅行した際に使用した日本の通貨の残り・汚れたり破けたりした時のための着替えを1組、と、最低限の荷物をナップサックに詰め、出来るだけ目立たない服装をとの考えから、父王からの地表界土産……それまで一度も袖を通したことのなかったTシャツとジーンズに着替え、最後に、ショーコが降り立つ地表界の地点は寒い季節であると聞いたため、上にコートを羽織って仕度を済ませた。

プロフィール

獅兜舞桂

Author:獅兜舞桂
獅兜座(しっとざ と読みます)座長・獅兜舞桂(しっとまいけー)です。
よろしくお願いします。
以前は恵子ミユキの名で活動しておりました。

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