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当社表紙最新(タイトルあり)
画像素材として、
キャラクターなんとか機様にて、キャラクターを作成させていただきました。
ニコニ・コモンズ様より、
lenna様・つのがわ様・キャベツ鉢様・クロイリク様・漫博堂様
(順不同)の作品をお借りいたしました。
ありがとうございます。

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お盆休みに行きたい場所、第1位!(当社調べ) (1)

第1部





          * 1 *



「ただいまー」
 お盆休みのため実家に帰省した小陽(こはる)は、面している道路に街灯が少ないために夜の闇に溶け込み気味の玄関を入った。
 本当は、もっと早い時間に来れるつもりでいたのだが、電車が混み過ぎていて、乗る予定だった便の何本も後の便に、やっと乗れたのだ。
 入った瞬間、
(……あれ? )
 玄関に鍵は掛かっていなかった様子なのだが、家の中は暗く静まり返り、イイイイイイイイイイ……と、耳鳴りなのか電化製品か何かの発する音なのか区別のつかない静寂の音だけが聞こえる。
(鍵かけ忘れて出掛けちゃったのかな……? )
 そんなふうに考えながら玄関を上がり、廊下をほんの数歩 進むと、玄関からは階段の陰になって見えないダイニングのガラス扉に明かりが見えた。
 その時、ガラス扉が開き、3つ年下、13歳の妹・星空(せいら)が仏頂面で出てきた。
(あ、いたんだ……)
 星空は、大股早歩きで小陽の脇を通り過ぎ、玄関で靴を履いてドアを開ける。
 時刻は、もう19時過ぎだ。
「っ? どこ行くのっ? 」
もう こんな時間なのに、と驚き、追おうとした小陽の鼻先で、
(っ! )
ドアは閉まる。
(お父さんとお母さんは、どうして黙って行かせるのっ? )
 小陽は踵を返し、父や母がいると思われるガラス扉を入った。
 そこに父はおらず、母がひとり、ダイニングテーブルで食事をしていた。
 その向かい側には、酷く中途半端に食い散らかされた食器類。
 そのうち茶碗と箸が星空専用の物であることから、そこで食事をしていたのが星空であると分かる。
 母は無表情で静かに食事を続け、食べ終えると、フワッと立ち上がり、自分の物と星空の分の食器をまとめ、手に持ってキッチンへ。
 小陽は、母のすぐ傍をついて歩く。
 静かに静かに、やはり無表情で皿を洗い片付ける母。
 やがて片付け終え、キッチン、ダイニング、と、順に明かりを消しつつ廊下に出て、明かりをつけず暗いままの廊下、階段を、まるで幽霊のようにフワフワ……と音も無く歩き、2階の寝室へ、スウッと吸い込まれていった。
(…お母さん……。どうしちゃったの……? )
 小陽の知っている母とは まるで別人のようなその様子に、心配になりながら、ひたすらついて歩く小陽の目の前、母は足元からゆっくりと崩れ、自分のベッドと父のベッドの狭い隙間にペタンと座って正面のサイドボードに腕を伸ばし、上に置かれた木の縁のシンプルなフォトフレームを手に取った。
 そのフォトフレームの中では、小陽が微笑んでいる。
「…小陽……」
 注意深く聞かなければ聞こえないほどの小さな声で、母は小陽の名を呼び、フォトフレームの小陽を抱きしめた。
(ホントに、どうしちゃったんだろ……? )
考えて、小陽はすぐにハッとした。
(もしかして、あの日から ずっとこんななの……? )
 あの日、とは、小陽が、小陽の今いる、そして両親や妹の暮らす この世界、肉体のある人々が生きる、ここ、物界(ぶっかい)で肉体の死を迎えた日のこと。
 そう、先程 小陽は、母の様子を、まるで幽霊のよう、と表現したが、ここ物界で一般的に言うところの幽霊、なのは、本当は小陽のほうなのだ。

お盆休みに行きたい場所、第1位!(当社調べ) (2)




 野原(のはら)小陽は49日前に肉体の死を迎え、肉体の無い人々の生きる世界・心界(しんかい)へ引っ越した。
 今は、お盆のため帰省している。
 四十九日の後に最初に訪れるお盆・初盆だ。
 小陽は生まれつき心臓が上手く機能せず、出生後間もなく、医師から、半年も生きられないだろうと宣告を受けていた。
 それが どうしたワケか、その心臓は16年間も持ち堪えた。
 もちろん、健常者のようには生活できない。ずっと病院暮らしで、たまに許可をとって両親と妹の暮らす家に外泊させてもらう以外は、外に出掛けることも無い。しかも車椅子だ。
 16年も持ったのは、そのためかも知れない。また、ある程度の年齢になった時に、自分の体について きちんと説明されていたのも良かったのだろう。自分でも気をつけることが出来たから……と言っても、隠れてコソコソ夜更かししたりしない、とか、何かをする前には必ず ひと呼吸おくとか、その程度のものだが。

 あの日……。
 朝から検査続きだったためか何だか疲れてしまった小陽は、自分の病室に戻り、昼食をとった後、珍しく昼寝をした。
 そして、ふと目を覚まし、半身起き上った時、
「……? 」
違和感を覚えた。
 体が妙に軽い。
 いつもに比べ、とても楽に起き上がれたのだ。
 首を傾げつつ、ベッド脇に置いてある車椅子に移るべく体の向きを変え、脚をベッドの下におろしてベッドの縁に腰掛ける格好になる。……その動きも軽い。
 もうひとつ首を傾げながら、車椅子に手を伸ばした小陽。
 瞬間、視界の隅、ベッドの上に何か不自然なものがあるのが映った気がし、何の気なく そちらを見た。
(! )
 そこにあったのは、ベッドの下におろしていたはずの脚。
 脚だけではない。きちんと振り返って確認してみると、自分が目を閉じ静かに横たわっている。
 驚いたが、すぐに状況を理解した。
(…わたし、死んだんだ……。多分……。だって、前にテレビで見た。死んだ時、宙に浮いて真上から自分を見下ろす感じ。わたしは浮いてないし真上からじゃないけど、でも、似てる……)
 状況は理解したのだが、
(……)
何だか、気持ちがついてこない。
 何だか実感がわかない……と言うか、何の感情も今のところ無く、「ふーん……」といった感じ。
 とりあえず、しっかり正面から見てみようと、ベッドに横たわっているほうの自分と向き合うべく、小陽はベッドから下りて立ち上がり、
「っ!!! 」
また驚いた。
 フラフラしない。
 床についた両足には しっかりと力が入り、頭のてっぺんまでの全身をバランスよく支えている。
(何っ? この力強い脚はっ! )
 ほとんど歩くことの無い自分の脚。手で何処かに掴まるなどしなければ、本来は立っていられないはず。それが、必要なかったのだ。
 確かめるように、両足でギュッギュッと床を踏みしめる。
 力が漲り、発散しなければ自分が弾け飛び散ってしまいそうに思えて、突き動かされるように無意味に動き回らずにいられず、初めはベッドから下りたその場でピョンピョン跳びはねクルクル回った。次第にノッてきてベッドから離れ、少し広くなっている部屋の入口のほうへ移動し、テレビの中のアイドルを真似て踊る。
 意に反してだが、嫌ではない。
 今まで力が入らず動けなくてもどかしかった。
 両親や星空や看護師たちの、おそらく本人たちにとっては普通な何気ない力のこもった動作のひとつひとつを見るにつけ憧れていた。
 嫌なワケがない。嬉しくてたまらない。
(すごい! 軽い! 力強い! 楽しいっ! )
 もう勢いがついて止まらない。止められない。
 力は発散されるどころか次から次へと湧いてきて、自分自身が純度100%のエネルギーの塊である錯覚さえ起こした。
 ダンスなどでは到底治まらない。スーパーボールのように、四方の壁に向かって行って ぶつかっては跳ね返り、を繰り返す。
(楽しい! 楽しい楽しいっ! )
 特に、窓側と入口側の間の移動が距離が長く楽しい。
 空間を切り裂かんばかりの勢いで、入口から見て左の壁に当たって跳ね返り、小陽は右の壁へ。
(よし! 次は角度的に窓側から入口側のコースに行けるっ! )
 そこを、
「っ? 」
 誰かに正面から抱きつくような格好で受け止められた。

お盆休みに行きたい場所、第1位!(当社調べ) (3)

 壁にぶつかったのと変わらない状態なのに跳ね返ることを許されなかった分の衝撃があった。
 小陽を受け止めた人物は、大きく息を吐きながら、小陽の背に回していた手を緩め、体を放す。
 その人物は、眼鏡をかけ白いワイシャツにカチッとしたグレーのズボンを合わせた服装をした、やや小柄な20代前半くらいの真面目そうな青年。
 青年は営業スマイルを浮かべ、
「失礼。何度も声を掛けたのですが、聞こえていないようでしたので、強引に止めさせていただきました」
「あ、はあ……? 」
 小陽は頭の中が「?」だらけで、中途半端な返事になってしまった。
 青年は構わず続ける。
「僕は心界役場住民課案内員で日向三郎(ひなたさぶろう)と言います。…えーっと……」
言葉を完全には途切れないようにしつつ、肩から斜めにかけていた肩掛けとしては大きめの鞄の中をガサゴソ。ややしてA4サイズの紙を取り出し、それに視線を落として、
「野原小陽さん、16歳。現住所、西塔市立病院A病棟803号室。転入事由、心不全」
読み上げてから視線を小陽に戻し、手元の紙の向きを変え、シャツの胸ポケットから出したボールペンと共に差し出し、
「間違いが無ければ、ここにサインをお願いします」
サイン欄を指さす。
 小陽は途惑った。間違いが無ければ、と言われても、と。
(…確かに、わたしは、野原小陽って名前で16歳。この病院の名前は西塔市立病院で、この病室の部屋番号はA病棟803号室だけど……。『てんにゅうじゆう』って……? )
 サインをするしない以前に、とりあえず、てんにゅうじゆう、という言葉の意味自体が分からないため、聞いてみようと、
「あの……」
 小陽が口を開いた、その時、入口のドアがコンコン。ノックされてから開き、
「小陽ー」
大きめの紙袋を手にした母が入って来て、ベッドに目をやると急に小声になり、
「あ、お昼寝? そっか、今日は朝から検査があったんだっけ? 疲れちゃったんだね」
 母は音をたてないよう気を遣っている様子で、手にしていた紙袋の中から洗濯済みのタオル類と下着とパジャマを順番に片手で持てる分だけ出しては、所定の位置に仕舞っていく。
 仕舞い終え、部屋の隅から折り畳み椅子を引っ張って来、ベッドの枕側に置いて、フウッと息を吐きつつ腰掛ける母。空になった紙袋を畳んでサイドボードの上に置いてから、ベッドに横たわっているほうの小陽の顔を間近から覗いた。
 直後、
「…小…陽……? 」
表情を曇らせてガタッと椅子を鳴らして立ち上がり、
「小陽! 小陽っ! 」
横たわる小陽に覆い被さるようにして肩を掴み、揺さぶった。
 母は、今にも泣き出しそうな表情で、枕元のナースコールのボタンに縋るように手を伸ばし、押す。
 すぐさま主治医と看護師2名が駆けつけた。
 駆けつけざまベッド脇から小陽を一瞬だけ見下ろし、看護師2名を振り返って、何やら指示を出す主治医。
 それを受け病室を飛び出して行った2名の看護師は、ちょっともしないうちに大掛かりな感じの機械を2人がかりで押して戻って来た。
 そこからは、泣き顔の母が隅で見守る中、主治医と看護師があれやこれやと動き回り、室内はにわかに騒がしく。
 ややして、大きな動きをしなくなった主治医。
 看護師2名は機械を片付け運び出す。
 静けさ取り戻した室内で、主治医、胸ポケットからペンライトを取り出し、小陽の左右の瞼を押し開いて光を当てた。
 それから、腕時計を確認。
「17時27分。ご臨終です」
「……っ! 」
母が、声になりきらない声で何かを叫び、横たわっているほうの小陽に駆け寄って、その胸の上あたりに抱きつくように覆い被さって顔を伏せ、肩を打ち震わせる。
「…お母さん……」
泣いている母につられて、小陽も泣きそうになった。
 一礼して退室する主治医。

お盆休みに行きたい場所、第1位!(当社調べ) (4)

 ほぼ入れ替わりに、
「お姉ちゃーん! 」
その場の沈んだ空気を一掃するような明るく元気な調子で言いながら、入口のドアを開け、中学の制服姿の星空が入って来た。
 ドアを開けるために片手を空ける必要があったのだろう、小さな片手で何とか頑張ってソフトクリームを2個持ち、学校の鞄は小脇に抱えている。
 ドアを閉めてから、星空はソフトクリームを1個、空いているほうの手に移し、ちょっとホッとした様子を見せつつ、
「病院の前のたい焼き屋さんがね、今年もソフトクリームを始めたの。お姉ちゃんの好きなイチゴ味と、今年の新商品のみたらし団子味を買って来たんだけど、お姉ちゃん、どっちがいいー? 」
(へえ、みたらし団子味っ? おもしろーい! )
 小陽は、ごく普通に星空に歩み寄り、
「じゃあ、わたしは」
選ぼうとしたが、目の前で、ソフトクリームは2つとも星空の手を離れて落下。
(あっ! )
 小陽は咄嗟に手を伸ばして受け止めようとしたが間に合わず、ソフトクリームは床に落ちてグシャッとなった。
(あーあ、もったいない……)
 それほど多くないはずのお小遣いをはたいて買って来てくれた星空は、もっとガッカリしてるだろう、もしかしたら泣くんじゃないかと思い、小陽は、恐る恐る星空を窺った。
 すると星空は、ベッドのほうを見て固まっていた。
 星空の視線の先にあるのは、横たわっているほうの小陽と、その傍らで泣く母。
「…お…姉、ちゃん……? 」
 星空は足を引きずるようにして、ゆっくりとベッドへ歩いていく。
 ベッド脇、母の隣まで辿り着き、呆然と立ち尽くして、横たわっている小陽を見下ろす星空。
 30分ほどが経ち、病院の人が連絡してくれたのか、父がやって来た。
 母は相変わらず、横たわっている小陽の上に顔を伏せて肩を震わせ、星空は放心状態。
 父は無言で背後から母の肩を抱いた。
 暗く重たい沈黙が、室内を押し包んでいる。
「…お母さん、星空、お父さん……」
 小陽は悲しくなってきた。父が、母が、星空が、悲しんでいるのを見ていたら、何だか、とても悲しくなってきた。
 先程も、一度は、母の泣いているのにつられて泣きそうになったが、星空の明るさに紛らわされていた。
(皆、わたしが死んで悲しんでる……。わたしが、悲しませちゃってる……)
 小陽は、おそらく1時間半から2時間くらい前、自分が死んだのだと気づいた瞬間のことを思い起こす。
(……わたしは、自分が死んだことを、特に何とも思わなかった。多分、自分がいつ死んでもおかしくないって、いつも思ってたからだよね?
 皆は違うのかな? 皆は、わたしと過ごせる時がいつ終わるか知れないから、きっと長くないってことも分かってたから、わたしと過ごす時間を大切に、わたしに優しくしてくれてたんじゃないの? …悔いの残らないように、悲しまなくていいように……。
 足りなかった? タイミングが悪かった? あるよね、そういう時。わたしも正直、星空がせっかく買って来てくれたソフトクリームを、星空と一緒に美味しく楽しく食べてからがよかった、とか、ちょっと思ってる。
 …何か、悲しいよ……。自分が死んだこと自体は何とも思わなくても、そのせいで皆が悲しんでると思うと、これまで、いつもわたしに優しくしてくれた大好きな皆を、わたしが悲しませちゃってると思うと、悲しくなっちゃう……)
 横たわっているほうの小陽の傍で悲しむ3人を、小陽は、胸を締めつけられるような気持ちで、
(…そんなに泣かないでよ……。分かってたことでしょ? わたし、頑張ったよ? 初めにお医者様から言われてたより、ずっと長く生きたよ? 
 星空みたいに勉強やスポーツで頑張って何かしらの結果を出すようなことは無かったけど、頑張ったんだから、そんなに泣いて責めないでよ……)
ほんの少しの腹立たしさを持って見つめた。
プロフィール

獅兜舞桂

Author:獅兜舞桂
獅兜座(しっとざ と読みます)座長・獅兜舞桂(しっとまいけー)です。
よろしくお願いします。
以前は恵子ミユキの名で活動しておりました。

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